銚子沖衝突事故、船乗り目線で事故の原因を探ってみる

海・船

5月26日午前2時10分頃、銚子、犬吠埼沖で内航船同士が衝突し、衝突した「千勝丸」が沈没するという海難事故が起こりました。

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画像は、事故当時第一報を知らせるナブテックスの記事

6月1日現在、千勝丸は水深30mの地点に右舷側を上側にして横倒しに沈没しているとの事。残念ながら、千勝丸の生存者は船長の1名のみで、3名は既に死亡が確認され、一等機関士の馬越さんは行方不明のままです。一時は、船体を叩くような音が確認され、生存に期待がもたれましたが、現在は音はしなくなているとの事。まだまだ今から海難審判にて色々な事が判明していくと思いますが、今ある情報から、分かるところまで事故の背景に迫ってみたいと思います。



衝突事故までの各船の動き

千勝丸の動き

千勝丸の仕出し港は鹿島となっています。積み荷は鋼材。私も20年前に内航船に乗って、鹿島で鋼材を積んだ経験があるのでわかるのですが、24時間荷役があり、夜中の出港はザラにあります。

荷役中は、航海士が荷役当直に入る事が多いのですが、この工場の場合、ある程度調整して積み荷をしてくれて、終了後に確認という感じでした。

鹿島港から事故海域まで30マイル強ぐらいになると思いますが、出港作業などの時間ロスを考慮し、船側は10ノット強だと仮定して、およそ4時間。22時頃の出港であったと考えられます。

そうなった場合、およそ23時頃から航海当直を組んだのではと考えられます。

私が乗っていた内航船は、乗組員も少ない事もあり、航海当直はその時の航海に合わせて時間を組んでいました。大型船のように、0~4 4~8 8~0の当直ではありませんでした。この方式でいくと、23~3時の当直時間であったのではないかと推測されます。

事故後、船長の証言で、「音で目を覚ますと、船内に水が入ってきていた」とある事から、船長は休憩中で、1等航海士も28日に居住区内で見つかっている事から、2等航海士が当直に入っていたのではと推測されます。

一方機関部は、機関長が30日に居室で発見されている事から、一等機関士は当直か休憩だったのか?と言う事になります。

内航船の機関部は2名乗船している事が多く、この場合、M0といって、機関部の当直を置かない時間を作り、異常があった場合は、船橋の警報が鳴る仕組みになってます。

出港していきなり休みを取らないと思うので、恐らく一等機関士は当直に入っていたのでは?と推測されます。そうなった場合、エンジンルームにいたのか、船橋にいたのか、またまた移動中であったかのどれかに当てはまるお思います。

すみほう丸の動き

すみほう丸に関しては、情報があまり出回ってません。ある情報としては、千葉県の港を出港し仙台に向かう途中であった事、乗組員4名は怪我がなく無事である事。
本来の船長は乗船していなかったとの事です。

事故を解析してみる

事故現場は、犬吠埼の南、約11Km。千勝丸は犬吠埼を変針後、千葉勝浦の八幡埼沖を目指し変針した後であったのではと推測されます。

一方すみほう丸も八幡埼から犬吠埼を目指し変針前と言ったところでしょう。

利根川河口に近い犬吠埼付近は、今は濃霧がかかる時期であり、この日も濃霧が出て視界不良であったとの事です。

事故の詳細はわかりませんが、すみほう丸の損傷から事故を解析してみたいと思います。

バルバスバウ(球状船首、水の抵抗を減らす為に船首の船底に着けられた突起)が潰れて左舷側に折れ曲がっている事。

  1. 船首にあるチョッサーステージ(一番船首にある一等航海士が入港の際に登って周囲を確認するステージ)のハンドレール(手すり)の損傷具合が少ない事
  2. 左舷の錨がちぎれて、左舷外販に突き刺さっている事

からすみほう丸は正面より若干左側で衝突したものと推測されます。

一方千勝丸は、左舷に穴が開き右舷を上にして沈んでいる事から、左舷側にすみほう丸が当たった事になります。

すみほう丸の写真は、事故後バラストを上げたかもしれませんが、空船に近い喫水だと見受けられました。一方の千勝丸は、鋼材を満載し満船状態であったと推測できます。

そうしたことから、恐らくすみほう丸は千勝丸の左舷中央付近の船倉の辺りに直角に近い左斜め方向に衝突したのではないかと思います。

そうなった場合、その前の見合い関係、近い位置での舵取り・針路取りがわからないのでどちらが悪いとは言えませんが、一般的に左舷側を見せている船を避航しなければならないので、すみほう丸が分が悪いのかな?と思います。ただ、どちらにも衝突回避の義務があり、一方的に悪いという事はなさそうです。

事故は回避できなかったのか?

誰も事故をしようと思って起こしません。
事故は色々な要素が重なり合ってやっと起きるものです。
それにあえて考えるとすると、レーダー、AISのをうまく活用できていたのか?という疑問があります。

レーダーは霧が濃ゆく、夜間でもあるため間違いなくレーダーはつけていたと思いますが、お互いにレーダー上発見できていたのか?気に留めていたのか?という疑問は残ります。レーダーにプロッティング機能が付いていたたなおさらお互いマークしていたのか?お互い気がけていたら衝突はあり得なかったのではないでしょうか。

AISに関しては、装着義務が500トン以上なのであったのかはわかりませんが、AISに関しては、装着していたら、すぐに相手船の情報が入るので、わかっているとすぐに避航動作に入るはずです。その辺りがポイントなのではないでしょうか。

他に気になる事は?

本来、内航船は5名乗船が基本です。というのも船員法で、基本1日8時間労働まで、最大14時間まで、労働可能で、7日間合計が72時間を超えてはならないという法律があります。

この4名で船を運行する事は、内航船の現状からして法律に抵触する可能性があります。

しかし、人手不足でも休暇は欲しいもの、4人で運航を余儀なくされる実情があったのでしょう。

船員不足は深刻です。千勝丸も全員60歳以上と、今の内航船の現状が浮き彫りになてます。事故の裏側にはこのような実情も隠れていたりします。

まとめ

今回、たまたま私も当直中で、ナブテックス(海上安全情報を自動で受信する装置)から今回の一報を受け、気が気でなりませんでした。先代の千勝丸には、友人が乗船していた事もあり遊びに行った事があるのでなおさらです。

明日は我が身、自分も気を引き締めて仕事に当たりたいものです。



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